講演概要
2009.09.19
明日、東京国立博物館平成館講堂にて講演を行うことになっている
動物愛護シンポジウムの中での基調講演である
今回のテーマは「めざせ!満点飼い主?ペットの高齢化について考える」
私以外に、
日本獣医生命科学大学准教授の鷲巣月美氏
ヤマザキ学園副校長 井上留美氏
犬のしつけ方教室ドルチェカーネ中塚代表 中塚圭子氏
の講演もある
今回の私の講演テーマは
「老齢管理で大切な四つの病気を知って、太?く!長?く!生きよう」
【要旨】
最近「アンチエイジング」という言葉を良く聞きます。このアンチエイジングとは老化を防ぎ若返りを促す「抗老化」「抗加齢」の事です。老けたくないといくら努力しても、「老化」はすべての生き物に共通に与えられた生物学的なプロセスで、避ける事も止める事もできません。
若い時は健康管理が十分に出来なくても、何ら問題も無く元気に暮らす事が出来ます。しかし老化が進むに従い病気に罹る事が多くなり、それらの中には若い頃の生活習慣が原因となるものもあります。例えば肥満からは「関節疾患」を、また歯磨きが出来ずに「歯周病」になれば心臓病や腎臓病など内臓に重大な病気を誘発する事になります。老齢期の病気には、その時期からケアーを初めてもすでに遅いものもあります。
また犬の老化のスピードはヒトに比べて、相当早いものです。そのため老化のサインだけでなく、体の中で起きている大きな変化までもを見逃してしまう事があります。老齢期を快適に暮すには、早期に病気をを見つけ出し対処していく必要があります。
その病気とは、歯周病などの歯科疾患、弁膜症などの心疾患、椎間板疾患などの骨・関節疾患、甲状腺疾患の四つです。
歯科疾患の一つである歯周病は、その痛みから食欲や元気もなくすだけでなく、歯肉の血管から細菌が入り込み、心臓病や関節疾患、腎臓疾患など、体中に様々な病気を引き起こす原因となります。たかが歯石と思っていては、いけません!
心疾患を起こすと、血流の維持が出来ず心血管系を含む多くの組織や器官に悪影響を与えてしまう事が知られています。聴診で心雑音が聴取はできるが、まだ症状としては出ていない時期を逃してしまってからでは治療が間に合いません。
膝や肘などの関節の磨り減りや、椎間板ヘルニアや変形性脊椎などの骨関節疾患では、患部の周辺に痛みが起こります。これらの痛みから体の動きが悪くなるだけでなく、食欲や元気もなくなるなど、様々な症状がみられるようになります。
甲状腺ホルモンはエネルギー代謝、たんぱく質代謝、糖質代謝、など身体の様々な代謝に作用するホルモンです。老齢犬に多く診られる甲状腺機能低下症は、まるで普通の老化現象のように見えるため、とても気が付きづらい病気です。
このような病気にも負けず長生きする秘訣は、一に「飼い主さんの愛情」、二に「食事や飼い方などの飼育環境」、三に「獣医師や動物看護師の技量」と思っています。
動物がヒトと大きく異なる点は、「自分の意志で生活を改善する事が出来ない」事です。
そのため愛犬の生活の質を改善するには、飼い主さんの意志でしかないのです。飼い主さんが愛犬の何らかの兆候に気付き、生活を改善する行動を起こさなくてはなりません。老化のサインを見つけ出すのも飼い主さん、体の不調を見つけ出すのも飼い主さんなのです。
そして手当をするのも、動物病院に連れて来るのも飼い主さんです。飼い主さんの愛情なしには、健康で長生きは出来ません。
またいくら愛情があっても、行動が伴わないと健康には暮らせません。生きるために食べなくてはならない食事も、その内容がとても大切です。また住む環境や心理状態によっても、健康に大きく左右します。そのため、より良い食と住環境をつくる事がとても大切なのです。そのため病気であっても老化であっても快適に過ごすには、飼い主さんの愛情と住みやすい環境が不可欠だと思います。
そして飼い主さんをフォローするのは、豊富な知識や経験などを持つ獣医師や動物看護師の技量です。我々動物病院スタッフの仕事は、病気を治すのでは無く動物たちの持つ自己治癒力を手助けをする事、また飼い主さんに対して様々な情報を提供し理解と納得の元で良い老齢管理が行われることが重要になります。
時の流れる早さはすべての生き物に対して同じででも、老化が進む早さには個体それぞれです。高齢に見られる様々なサインのすべてが、老化現象とは限りません。中には病気による症状という事もあります。そのため「歳のせい」と決めつけたり、「歳だからしかたない」の一言で済ませてはなりません。
また飼い方によって命の長さが左右されてしまう…それがヒトに飼われている動物の宿命なのです。愛犬愛猫の老いを認識し、これから明るく楽しく元気に暮らすにはどうしたら良いのか一緒に考えていきましょう!