【椎間板ヘルニア】犬の椎間板ヘルニアとは?症状や治療法を解説
2021.07.01
急に腰を痛がり、後ろ足がもたつくようになった!
そんな症状がみられたら「椎間板ヘルニア」を引き起こしているかもしれません。
どこか痛いのかしら?
椎間板ヘルニアとは、椎間板が『飛び出たり』『膨れたり』して脊髄神経を圧迫してしまう病気です。
椎間板ヘルニアは急に発症することもある病気ですが、気をつければ重症化を防げる病気でもあります。
ここでは『犬の椎間板ヘルニア』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。
もくじ
椎間板ヘルニアの症状
椎間板ヘルニアが発症すると脊髄の神経や周囲の部分を圧迫してしまうため、その部分に炎症が起こり痛みます。
また圧迫によっても神経に強い痛みを発生しますが、その度合いは圧迫している場所や圧迫の程度によって様々です。
椎間板ヘルニアの症状は以下のようなものがあります。
- 痛くて歩きたくない
- ふらついてうまく歩けない
- 足を動かせない
- 腰を上げることができない
このような神経の麻痺の症状以外にも、オシッコがうまくできないなどの排尿障害が見られます。
椎間板ヘルニアの多くは腰で発症しますが、首でも発症することがあります。
具体的な症状については次章で、重症度別に詳しく説明します。
背骨は幾つもの骨(椎体)が連なって作られています。
そして椎体と椎体の間には「椎間板」と呼ばれる組織があります。
下の写真は背骨の様子ですが、椎体と椎体の間の『黄色い部分が椎間板』です。
椎間板は水分を多く含んだゼリー状の「髄核」と、髄核を囲む弾力性のある「線維輪」からできています。
そして椎間板は背骨にかかる衝撃を吸収する、クッションのような働きをしています。
椎間板ヘルニアは腰の部分で発症することが多いのですが、実は首にも発症します。
その発症率は椎間板ヘルニアの約8割が腰の部分に、そして約2割が首に発症すると言われています。
しかも腰に発症する場合にはヒトと違い、胸に近い胸腰部に多く見られます。
胸腰部椎間板ヘルニアの重症度別5つのグレード
胸腰部【グレード1】腰を丸めて痛そうにして動きが悪い状態
胸腰部椎間板ヘルニアの中で一番軽い状態で、「いつもと様子が違うかな?」と思う程度です。
以下のような症状が見られます。
- 足腰の動きには問題が無い
- 腰に触られるのを嫌がる
- 腰を丸くして歩く
- 頭を下げて歩く
この時期からコルセットをつけたり、内科的治療を行えば治ることもあります。
胸腰部【グレード2】フラフラと歩き腰に力が入らない状態
神経の麻痺が見られ始め、いつもと歩き方が変わっています。
以下のような症状が見られます。
- 歩けるが後ろ足がふらつく
- 腰に触られるのを嫌がる
- 後ろ足が上がらず爪を地面に擦って歩く
- 頭を下げて歩く
この状態を放置し様子を見ていると、症状が進行してしまうことがあります。
この犬はグレード3に近い「2」ですが、コルセットをつけると楽そうには歩きます。
しかし歩くときに力が入るとオシッコがチビれてしまうので、オムツを付けてます。
胸腰部【グレード3】自力で立つことができない状態
グレード3以上は重度に分類され麻痺を伴い、以下のような症状が見られます。
- 足を動かせても立て無いた
- 歩けない
- 介助すれば立てるが歩けないく
- 前足を使い後ろ足を引きずり体を移動できる
- 寝ながらでも自力でオシッコできる
立てないままでいると、場合により腰などに床ずれが出来てしまうので注意が必要になります!
胸腰部【グレード4】足先の皮膚をつねっても痛みを感じない状態
神経の麻痺が進み、皮膚などの体の表面に近い部位の痛みを感じる感覚が低くなるか無くなります。
以下のような症状が見られます。
- 多少感覚は残っており強い痛みには反応する
- 自分の意思で歩けない
- 自力でオシッコができないく
この状態になると、早めの外科的治療を行うことが必要となります。
胸腰部【グレード5】歩くことができず、足先の骨をつねっても痛みを感じない状態
椎間板ヘルニアで最も重い状態とされ、以下のような症状が見られます。
- 寝たきりの麻痺状態となる
- 強い痛みにも反応しない
ここまで進むと手術を行なっても歩けるようになるのは50%程度と、回復率は著しく低くなってしまいます。
そのため、車イスで生活している犬も見られます。
グレード5の約10%で、「進行性脊髄軟化症」が起こってしまうことがあります。
この「進行性脊髄軟化症」は、急速に脊髄が死んでいくという病気です。
そのため最終的には神経の麻痺から呼吸ができず、亡くなってしまいます。
頸部椎間板ヘルニアの重症度別3つのグレード
頸部【グレード1】首に痛みがあるが、そのほかに症状が見られない状態
頸部椎間板ヘルニアの中で一番軽い状態で、「いつもと様子が違うかな?」と思う程度です。
以下のような症状が見られます。
- 足腰の動きには問題が無い
- 首を動かすことを嫌がる
- 首に触ると痛がる
- 上目づかいで見てくる
- 頭を下げて歩く
頸部【グレード2】歩くときにふらつくなどの異常が見られる状態
胸腰部椎間板ヘルニアとは違い、前足に麻痺などの症状が見らるようになってきます。
以下のような症状が見られます。
- 立ったり歩いたりすることはできる
- 歩くときにふらつく
- 足の動き方がぎこちない
- 前足の先を丸めて甲で地面に立っている
- 立つときに前のめりになってしまう
頸部【グレード3】立つことも歩くこともできない状態
神経の麻痺が進み最も重い状態とされ、以下のような症状が見られます。
- 首から下に麻痺が起こる
- 起き上がれない
- 立つことも、歩くことも出来ない
- 足先などの痛みを感じない
椎間板ヘルニアの原因
正常な椎間板と、神経の関係です。
椎間板は「髄核」と「線維輪」からできています。
特定の犬種におこる椎間板の変性によるもの
若いうちから椎間板が変性してしまうダックスフンドやビーグルなど、特定の犬種に多く見られるタイプです。
このタイプは日常の何気ない運動であっても、椎間板に加わった力を吸収できず髄核が飛び出し神経を圧迫して発症してしまいます。
そのため、何の前触れもなく急に発症することが多いとされています。
老化によるもの
歳をとるに従い繊維輪が変性し弾力性が失なってしまい、繊維輪が腫れたようになり徐々に脊髄を圧迫するものです。
このタイプは慢性的に経過することが多いとされています。
安静にしていても症状は進行してしまうため、内科的治療では症状の回復を見込めず外科的治療を行うことが多くなります。
椎間板ヘルニアの主な治療法と費用
椎間板ヘルニアを起こして脊髄神経が圧迫されると、その周囲の組織に炎症や損傷が起き痛みや麻痺などの症状が出てきます。
犬の椎間板ヘルニアの診断は、神経学的検査やMRI検査によって行います。
また椎間板ヘルニアの治療は、症状のグレードや全身状態によって治療方法が選ばれます。
薬などを使った内科的治療は炎症を抑える目的で、また外科的治療は手術で脊髄神経の圧迫を取り除くために行います。
安静にする(ケージレスト)
内科的治療の基本は安静です!
安静は、まだ歩くことができる場合に症状の悪化を防ぎ脊髄の損傷の修復を願って行います。
安静の方法はケージの中で暮す『ケージレスト』です。
部屋の中で静かにして、散歩には行かないような安静ではありません。
安静の期間の目安は症状の程度で違いますが、椎間板が安定する約4~8週間とされています。
結構長い期間で可哀想と思われますが、一生歩けなくなることを考えれば短い期間と考えて下さい!
コルセットで固定する
コルセットを使い、ヘルニアを起こした部分の安定化を図ります。
またコルセットを使うことで、患部の痛みを減らすこともできます。
性格的に安静にするのが難しい犬には、特にコルセットは有効です。
痛み止めを飲ませる
首や腰に痛みがあると食欲や元気も無くなってしまうなど、生活の質を落としてしまいます。
そのため少しでも楽になるように、消炎鎮痛剤などの薬を飲ませてあげます。
鍼をうつ
鍼治療が痛みを取ったり、神経の回復に効果があることがあります。
処置は週に1回の通院で行います。
幹細胞による治療を行う
「幹細胞」とは、体の中にある様々な器官や臓器などに変化する細胞です。
椎間板ヘルニアではこの幹細胞を利用し、脊髄の損傷した部位の血流の改善と神経細胞の回復を目的とした治療を行うことができます。
幹細胞療法に使う幹細胞は、皮下脂肪の中から取り出し培養で増やしたものを使います。
幹細胞療法は他の内科的治療や椎間板ヘルニア手術などと併用も可能な治療方法です。
幹細胞療法にご興味のある方はご相談ください!
外科的治療を行う
脊髄を圧迫している部分を取り除くため、外科手術を行います。
手術を行う際にはMRI検査を行い、ヘルニアを起こしている場所を確定します。
整形外科・神経外科専門の動物病院を紹介致しております。
リハビリを行う
手術後には生活の質を取り戻すためにも『リハビリ』を行います。
椎間板ヘルニアを起こすと、足腰の筋肉量が落ちてしまいます。
そのため筋肉の量を増やし足の動きの改善のため、マッサージやトレーニングなどリハビリを行う必要があります。
リハビリは、外科治療により脊髄の圧迫が取れた後に行います。
後ろ足を高く上げるリハビリの様子です
上記の犬は、水中トレッドミルというプールとウォーキングマシーンを組み合わせた水中歩行機で水中療法を行なっています。
水中トレッドミルは水の浮力を利用して、足腰の骨や関節などの負担が減らした運動が行えます。
そのため早期の機能回復を目的として、比較的早い時期からリハビリを行います。
また手術後に行うと、運動機能の回復が速くなります。
椎間板ヘルニアの治療費
MRI検査は全身麻酔をして行うため、10万円前後の費用がかかります。
(当院では、MRI検査は検査センターを紹介して行なっております。)
幹細胞療法を行う場合の費用は、1回8万〜9万円、
また椎間板ヘルニアの手術の費用は、20万〜30万円くらいかかります。
やはり症状的にも経費的にも、椎間板ヘルニアの処置は早期に行うことが望まれます。
椎間板ヘルニアの予防方法
背骨を守るために背筋を鍛え、背中の筋肉量を増やします。
鍛えられた背筋はコルセットのような働きをし、急な腰の捻りに対しても椎間板を守ります。
また腰に大きな力がかるような姿勢をしないように、躾をすることも大切です。
日々のケアを十分に行うことで、椎間板ヘルニアを予防するとともに重症化も防ぎます。
椎間板ヘルニアの予防のため以下のことに気を付けましょう。
犬の体調・身だしなみのケア
- 背中に筋肉を付け体を作っておく
- ふくらはぎや太ももの筋肉をつける
- 爪を長くしておかない
- 床で滑らないように足の裏の毛を短く切っておく
- 子犬のときからのバランスの良いフードを与える
犬の首や腰に負担のかかる運動を避ける
- フリスビーなど急に向きを変えるような運動を避ける
- ドッグランでの追いかけっこなどは避ける
- 急に向きを変えるような運動を避ける
- 膝に体重がかかるような運動を避ける
飼育環境を整える
- 足が滑らないような床材にする
- ソファーやベッドには上らないよう躾ける
- 後ろの二本足で立ったりピョンピョンさせないよう躾ける
- 抱き上げるときは体全体を支える
犬の様子や動きを日頃から観察する
椎間板ヘルニアは進行性の病気のため早期発見、早期治療により重症化しないようにしてあげたいものです。。
そのためにも歩き方などのチェックを心がけましょうね。
以下の項目に一つでも当てはまるものがあった場合には、ご相談ください。
- ソファーなどに飛び乗らなくなった
- お腹が張っている
- 抱き上げると「キャン」と鳴く
- 首や腰に触ると痛がる
- 首を下げて歩く
- 腰を丸めて歩く
- 歩くことを嫌がる
早期発見、早期治療により生活の質を落とさないようにしましょうね!
椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種
- 老犬
- ミニチュア・ダックスフンド
- トイ・プードル
- ビーグル
- シーズー
- ペキニーズ
- パピヨン
- フレンチ・ブルドッグ
まとめ
椎間板ヘルニアは中高齢の犬に多いと言われますが、実際には若い犬にも起こりえる病気です。
首や腰を痛がったりなど何か気になる兆候が見られたら、早めにご相談ください!
背中の骨を守るための筋肉の鍛え方など、日々のケアをお教えします。
スタッフ一同、足腰の健康を守るお手伝いをします!